Column
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズで届けます。
第一回は「モーターの熱にご注意」です。
これから気温が上がり、日差しも強くなりますのでこのテーマにしました。
マルチコプターで使われるブラシレスモーターは永久磁石に「ネオジム磁石」(注1)を使用しています。この磁石は小さい体積でも強い磁力を持つのが特徴で、永久磁石で最強の磁力を発揮します。力の必要な電動自動車などのモーターや、小さくてもパワフルなイヤフォンのドライバーなどにも多く使われています。
この磁石の欠点は高熱に弱いという点です。このことは頭の隅に置いておきましょう。一般的に多い「フェライト磁石」はおよそ450度Cから磁力が減少しますが、ネオジム磁石は300度C程度で消磁してしまいます。文献では220度あたりから磁力減少が始まると読んだ記憶があります。
いうまでもなく、モーターは界磁の磁力が低下すると回転力も低下します。推進力が低下するとバッテリー消費が多くなったり、さらには高度が上がらず飛ばなくなります。特に複数のモーターを使用するマルチコプターでは少しの変化でもバランスを崩し、コントロールができなくなる可能性があります。
夏の瀬戸内海の島で長期間撮影したことがあります。待機中に強い日差しを受けて、すでにモーターはアイロンの状態。7kgを超えるカメラを持ち上げる8発機はパワーの低下が禁物です。そこで我がチームでは2機の機体を交代で使用しました。さらに3機目もスタンバイ。ピットクルーはバッテリーの充電とモーターの冷却を繰り返します。
CMや映画の撮影ではゆっくりした動きを何度も何度も連続して繰り返すことが多いので、モーターも空冷が満足にできません。夏は特に気温も高く、機体を休める日陰もなく、監督の指示にしたがって飛ばしているとモーターも悲鳴をあげます。また風向きや飛行の内容によっては特定のモーターだけが異常に発熱することもありますね。パイロットもオーバーヒートしますが…。
バッテリーあたりの飛行時間が短くなったり、上昇力が弱くなったりという現象に気づいたらモーターを休ませるようにしてください。できれば複数の機体を用意して、ローテーションにするのが理想的ですね。
もう一つ、ある工場での撮影で、ボイラー棟の排気煙突近づいたときの特殊なエピソードです。正確に排気温度を計測することはできませんでしたが、レーザーの非接触温度計で煙突の口の部分は200度以上あったと思います。そこに機体を近づけていたら、操縦不能になったことがあります。幸い、駐車場のクルマの間にハードランディング(笑)したのでことなきを得ました。
一部のモーターの回転力が変わって、バランスを取りきれなくなったためと推測します。再現実験などが困難なため、確証はありませんが、状況的には高温が原因としか考えられない事象でした。
最近の市販製品はペイロードに余裕のある設計と思われますが、それでも炎天下のヘビーローテーションにはご注意ください。
注1:ネオジウムという表記もありますが、本来はネオジム。英語圏での発音はニァディミァム。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士