Column
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズで届けする第二回目。
今回のテーマは「機体を見失う恐怖」です。
岩手県の雫石の山の中に深い渓谷を渡る大きな橋がありました。橋の上から渓流までは30mほどあります。10階建てのビルくらいですね。遥か下の渓谷の流れにできるだけ近づけてから上昇し、渓流を舐め上げて、遥かな山並みを撮るという動画の撮影です。渓流まで下りて行けそうもないので、我々はその橋の上から離陸させ、高度を下げて渓流目指して降下させることになりました。飛行するドローンを上から見るのは初めてのことでした。嫌な予感がします。
10mも下さないうちに言い知れぬ恐怖に襲われます。薄暗い谷底を背景にした機体はLEDが一切見えず、背景に溶け込んで見えないのです。操縦者にとって機体を見失うことがどれほど怖いことか。
手元のモニターに表示される高度計はマイナス高度が増えるばかりで、参考になりません。谷底に降りるためにGPSの数も減っていきます。こんな状況でAモードになったら完璧にアウトです。撮影画像だけを見ているカメラオペレーターは「もっと下がって」と言いますが、操縦者権限を発動して「もうだめ」と宣言しました。
市販のマルチコプターは機体の向きを示すLEDライトが備えられていますが、下向きについているものが多いようです。これは操縦者が飛行中の機体を「下から見上げることが多い」ということを表していますが、実際の業務の中では上のような例外的な運用が出てきます。つまり操縦者の位置より低い方向に飛行させるケースです。その場合は機体のLEDライトが見えなくなります。
airvisionチームが当時使用していた機体は大型の自作機で、遠距離でもしっかり確認できるようにいくつものLEDを装着しましたが、やはり下から見えるようにすることだけを考慮していました。
もう一つの事例は千葉県の海沿いでした。灯台のある小高い丘の上から、600mほど離れた漁港が見下ろせます。その撮影はその灯台から港に向かって降りていく人物目線の映像を撮影します。丘の上にいる操縦者から見れば自分の位置より低い方へ飛んでいくわけです。
この時も機体が森や家並みを背景にして上から見下ろすことになり、視力の良い操縦者でも見失います。対策として上からでも見える大きめのLEDを追加装備して視認性を上げました。それでも距離が離れて小さくなると機体の把握が困難になります。このときの操縦者は「双眼鏡を頭に付けたい」と言っていました。
機体の背景が空ではなくなるということは大いに起こり得ます。山や街並みなど背景が複雑になることは、高度が低くなると必然的に起きますね。まして距離が離れれば見失うのは容易です。最新の機体はFPVカメラを備えたものや障害物センサーなどを備えていますので、それらの機能を正しく設定し、冷静に慎重に対処すれば事故は回避できるでしょう。ただし過信は禁物です。いざという時に慌てないためにも、練習の機会に低い方に飛ばすなどの経験をしておくとなお良いと思います。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士