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コラム

Column

EPISODE8: 寒冷期のフライト

プロの空撮エピソードから学ぶ
 2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。今回のテーマは「寒冷期のフライト」です。

 

 季節外れのテーマで恐縮です。寒い写真と寒いお話しで冬の寒い時期に思いを馳せ、少しでも涼んでいただければ幸いです。寒冷期の撮影業務はバッテリーの心配が一際高まってきます。特にドローン撮影では飛行時間に影響があるので神経を使いますね。

 

 

 ドローン空撮で私が最初に低気温の怖さを知ったのは2012年頃の冬でした。軽井沢の信濃追分宿近くにある「御影用水温水路」という人工水路があります。稲作用の用水の温度を日差しで上げるための水路で、浅くて幅が広い不思議な風景の水路です。ここが冬の寒い時期になると水面に水蒸気を溜めて幻想的な風景になるという話を聞き、せっかくなら雪が積もった風景を撮りたいとチャンスを窺っていました。

 

 ある日、東京でも結構な積雪となる雪が降り、チームメンバーと夜にスクランブル発進。この時は航空法が改正される前なので許可申請などは必要なく、いつでもOKでした。
 明け方の軽井沢に着くと早速撮影開始。寒いとバッテリーが保たないことは知っていましたので、できるだけ冷やさないように、直前に満充電して…と、満を辞して離陸したら、離陸した途端にバッテリーアラートが点滅。「えっ! そんなバカな!」と思わず叫んで慌てて着陸。
 気温は2度程度だったと記憶しますが、「なんで?」と疑問を抱えながらも、マジックアワーは待ってくれません。すぐにバッテリーを交換して再チャレンジ。今度はアラートも出ず、大丈夫。「OK、OK」と少しほっとした頃にやはりいつもの半分以下でまたアラート。

 

 

 結局、3回目以降は約7割程度に安定しましたが、最初の2回は想像を越える現象で驚きました。原因は不明ですが、モーターやESCのコンデンサーによる内部抵抗が大きかったのではないかと考えています。数回飛行して機械内の温度が上がると飛行時間が伸びたので、そのように推測しています。

 

 この経験を生かし、スキー場などでの撮影では対策を強化しました。まずバッテリーの保管は加熱保管します。積極的に温度を上げるという意味です。加熱といってもヒトの体温程度を上限とします。そこで我々はクーラーボックスの中に湯たんぽを入れました。湯たんぽといってもシリコン製の柔らかいもので、フリースなどのカバーが付いたもの(通販サイトで買えます)です。これに熱湯を入れてバッテリーと共にボックスに入れるとちょうど良い温度で加熱保管できます。湯たんぽは温度が徐々に下がるだけで不用意に高温になる心配が無いという点でもおすすめです。

 

 ポケットカイロなどを使う方もいますが、温度管理ができないので高温になり過ぎる危険性があります。また酸素が無いと熱を出さないので、クーラーボックスなどで密閉すると熱が出なくなります。電気式の保温ボックスなどは温度管理に注意してください。缶飲料用だと温度が高過ぎるのでバッテリーが劣化したり、場合によっては発火などの危険性が出てきます。
 少し大きめのクーラーボックスに入れると温度ムラもなく安全に保管できます。カメラやモニター用など他のバッテリーも同様に保管しましょう。様々なインテリジェント機能を備えたDJIのバッテリーもこの方法は有効です。

 

 

 さらに機体に装着する際にバッテリーそのものを断熱材でカバーします。薄いウレタンシートやアルミ蒸着シートなど、装着に支障の無いように工夫が必要ですね。DJIの専用バッテリーなどは形状的に余裕がないので、カバーは空いている場所にシールを貼る程度になります。
 そして本番前に数回の飛行で機体のウォームアップをします。初回の飛行は短くなることを想定して注意してください。

 軽井沢の体験は業務外だったので幸運でした。極端な気温、気圧、風など、業務外であらかじめ経験を積んでおくことはとても大事です。いきなり業務で初体験するのはプロとしての信用を損なうという意味でも大変危険ですね。

 

横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績  総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士