Column
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。今回のテーマは「飛行中のコミュニケーションツール」です。
このコラムでも以前「2オペ」について取り上げたことがあり、その際のパイロットとカメラマンの意思疎通が大事というお話しをしました。この二人の位置が離れた場所に立つことが少なからずあります。
さらにCMの撮影などでは撮影と共にドローンチーム全体を統括管制するスタッフをはじめ、バッテリーの充電管理をするスタッフ、離れた場所の飛行監視をするスタッフなど3人から6人程度のスタッフが飛行の状況を共有する必要が出て来ます。遠隔地点に監視者を配置しても、速やかな意思疎通ができないと意味がありません。
ひとりで操縦と撮影をする場合でも、安全な飛行のために補助者や、場合によって遠隔地点の監視者などは必要なのでコミュニケーション用の道具が必須アイテムになります。
さて、その道具ですが、スタッフの多くが両手を使っている状況なので、通話のたびに手を使うことができません。なのでいちいちボタン操作が必要なトランシーバータイプはだめ。「常時接続」が必要な機能になります。さらにお互いの発声が被ると音が途切れるタイプだとスピーディでスムーズな会話が続きません。タイムラグなしに、普段の会話と同じようにしゃべり合える「同時通話」のシステムが必要です。
イメージは「電話」と同じです。この機能を持ったシステムはすでに放送業界やイベントサービスなどで多く利用されているいわゆる「インカム」ということになります。
チームを立ち上げる際、このツールの選択には大変苦労しました。というのも、放送業界などで使用されているインカムは基地局を設定する大掛かりなものが普通で、価格も数十万円から百万を超えるものという規模になるのです。機材も大掛かりで機動性に欠け、数人の通信用としては大袈裟なものばかり。「常時接続、同時通話」の簡易なものはなかなか見つかりません。我々は秋葉原の通信機器専門店を回ったり、ネットで調べたり、レンタルを試したりと試行錯誤の挙げ句、バイクツーリング用のコミュニケーションツールにたどり着きました。
写真の「スカラライダー」はヘルメットに取り付ける通信機で、当時我々が採用したものです。現行機種はもっとスマートなデザインになっています。特別な基地局や機器が必要なく、8人程度までバイクを運転しながら会話ができるという、まさに我々に打って付けの通信システムでした。我々はこれを適当なヘッドセットを改造して取り付けました。操縦が多かった私は離着陸時の機体の騒音がうるさく、会話が聞こえないので3Mのイヤーマフを利用しました。
フル充電で1日使用できるので、スイッチも入れっぱなし。3〜4人で使用することが多いのですが、いつ話しても側にいるように会話ができます。問題は通信距離です。当時の製品でカタログ値は1.6km程度とありますが、これは環境次第。富士スピードウエイのホームストレート両端で会話できたことがありますが、このような環境は稀。近距離でも建物や丘などで隠れているとつながりません。それでもほとんどの仕事で非常に役立ったのでドローンチーム用としては合格点をあげたいと思います。
今は本格的なインカムシステムでもだいぶ小型化されてきましたので、選択肢は多くなっているようです。簡易な通信機器を含めてお選びいただければと思います。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士