Column
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。今回のテーマは「RTHパニック」です。
RTHとはReturn to homeの略ですね。緊急時に機体が自動的に帰還する機能で、さまざまなフェイルセーフ機能の一つです。今回は私の失敗談です。2012年頃の話です。当時我々はアメリカ製の8発フレームにDJI Wookongというフライトコントローラー(FC)を載せて飛ばしていました。当時のFCにもフェイルセーフ機能がありましたが、現行製品のようにきめ細かなインテリジェント機能はなく、単純なものでした。
都内某所の撮影で、スチールのパノラマ撮影をしていたときのことです。高度150mで8方向を撮影します。その地点が50mから100mほどの間隔で数箇所にわたり、結構なボリュームの仕事でした。離陸して高度を上げて8方向撮り終わる頃にはバッテリーがなくなります。したがって一箇所ごとに着陸してバッテリー交換を余儀なくされます。
撮影も終盤になり、あと二箇所ほどというときでした。着陸しようと高度を3m程度に下げたとき、次の地点が50mほど先に見えたので、運ぶ手間を省こうとそのまま移動を始めました。バッテリーの残量が少なくなってLEDが点滅を始めます。私は心配するスタッフの静止を振り切って強引に移動を続け、目的の場所に着陸しようとした瞬間、突然急上昇!「暴走」という言葉が頭をよぎり、私がとった行動は「強制停止」でした。その対処は驚くほど早く、高度は6m程度だったと思います。そこでプロペラが停止しました。本当に咄嗟の対応でした。
「危険の回避」という要素と「当時のFCに対する一抹の不信感」がこの対応を生んだ原因ですが、もう一つ、フェイルセーフという機能に対する認識の浅さがありました。
下は芝生でしたが重い機体は大破し、搭載していたカメラのレンズが破損しました。仕事は撮影済みのデータで仕上げられたのが不幸中の幸いでした。ただ、他に事例のない時代にドローンによる撮影を売り込む立場の我々としては情けなく、切ない事故でした。チームのスタッフには申し訳ないことをしました。
RTHの起動と分かっていればフライトモードを変えることでことなきを得たはずでした。この機能を体験した方はその急上昇のスピードをご存知でしょう。機体が勝手にこの動作をしたらと考えると誰しもパニックになります。
現行の製品ではより細かな設定が可能で、機体自身の状況判断も多岐にわたるため、高度50cmから急上昇するようなことはないでしょう。そのためにもフェイルセーフの設定は飛行のたびに細かく確認し、しっかり認識しておくことが大事です。そして、時々その機能を起動してみて、動作を確認し、体験しておくようにしましょう。いざというときに慌てないように、そして後悔しないように。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士