Column
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。今回のテーマは「ビジネスマネージメントその2=設備」です。
ドローンでビジネスをされる方向けのアドバイス2回目です。前回は保険でリスク回避をという話でしたが今回は現場での機材トラブルについて考えます。
エクスキューズが許されないのが受託撮影をするプロの仕事。機体のトラブルやバッテリー、通信装置の不具合など、設備に関わる問題でクライアントの要求を満たせない事態は絶対に防ぎたいところです。しかし設備はお金のかかる話。ビジネスとしてはどこが妥当な線なのかを見極めて投資する必要があります。
その「妥当な線」は案件ごとに変わるので、受注のたびにリスクマネージメントを熟慮することになります。撮影難易度や期間、飛行回数、気温の影響、飛行ルート、撮影の内容などなど多くの要素を考慮して、不足のものがあれば補充や新規購入します。場合によってはレンタル機材などの手配をします。
機体については最低2セットは必須。絶対に落ちないドローンはありません。壊れることを想定するのはプロとして当然のこと。しかもイコールコンディションの状態でスタンバイさせておくのが本来のスペアです。直ちに撮影を再開できるようにしないと意味が半減します。なのでアクティベーションはもとより、あらゆる設定を本番機と全く同様に準備しておきます。長期間であったり、遠隔地であればさらに3台目以上ということもあり得ます。カメラ機材の例では実際にスペアを追加補充するためにスタッフが飛行機で東京まで飛ぶなんてことも目の当たりにしました。乗りかかった船にはなんとしても乗ることになり、否応なしの投資が必要になります。それだけに十分な備えが大事ということです。
我々が初期に飛ばしていた大型機は自前で組み立てたということもあって、完成機のスペアの他にフレームや電気系統からケーブル、ボルト類などまでパーツとしても現場に持参していました。場合によっては現場でハンダゴテまで使います。機体が大きいこともあり、写真のようにハイエーススーパーロングのワイドに満載してそのまま現場に行くことになります。今はそこまで大掛かりになることはありませんね。
次はバッテリーについて。バッテリーの不足や充電待ちは撮影の進捗に影響します。切れ目のない循環を可能にする本数はいくつなのかを実践的に見出しておきましょう。机上の計算だけではダメです。使用したバッテリーを充電器にセットして、充電が終わったら次の充電を始めるというスタッフも必要。これがいるのといないのでは本数も変わります。ここには気温の影響や電源の手配も考えておかなければいけません。飛行後に熱くなったバッテリーはすぐに充電できないし、寒冷地で冷えれば使用時間が短くなり、必要な本数も変わります。また短時間に充電する能力を上げるためには複数の充電器を使用します。その合計電力くらいは理解しておきましょう。ロケの場合はガソリンの発電機をレンタルで用意しますが、どの程度の発電能力で何台必要なのかを計算します。不足や無駄の無いように手配することが必要ですね。
記録媒体も大事。最近の機種ではマイクロSDになりますが、カットの度に交換するのがおすすめです。1枚に大量のデータを貯めるのは万一の際のデータ消失のリスクも大きくなります。カット撮影のたびに内容をチェックして、バックアップを複数取り、そのバックアップを確認するという作業を撮影と並行して行います。従って簡単につぎからつぎにデータを削除するわけには行かないので、十分な枚数を備え、さらに番号を付けて撮影内容を記録管理しなければなりません。
他にも細かな物でもいろいろ想定して準備しなければならないものがたくさんあります。現場で冷や汗をかかないように、そして無駄な出費をしないように万全を期しましょう。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士