amana drone school

コラム

Column

EPISODE10: 岩になったパイロット

プロの空撮エピソードから学ぶ
 2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。今回のテーマは「岩になったパイロット」です。

 

 エピソード10回目の今回はアドバイスというより、当スクール講師の小林先生がその昔に岩になったことがあるという面白いお話しです。彼が岩になったのは事実です。その時のことを本人も「本当に怖かった」と言っていました。

 

 

 2014年3月公開の映画「◯◯の××便」(実写版)の撮影にドローン空撮で参加させてもらった時のことです。撮影は2013年、小豆島や岡山、千葉館山など広範囲で長期間にわたりましたが、ロケのメインは小豆島で、延べ2週間ほど滞在しました。その時に小林バイロットが岩になってしまったのです。

 この案件では操縦全てを当時airvisionチームのエースパイロット小林先生に受け持ってもらいました。チーム全員がまだ経験の浅い時期でしたが、年齢的にチームの軸となるべき彼に頑張ってもらうことにしたのです。撮影でフライトごとに撮影内容などの記録を取っていたのでほぼ正確に250回を超え、貴重な実戦経験を一気に積むことができました。

 

 彼が岩になったのは小豆島の「寒霞渓(かんかけい)」という断崖絶壁でのことです。主役のK.F.ちゃん(当時はまだ少女だったので、あえて「ちゃん」です)が断崖に突き出した岩の上で50cmほどの段差を飛び降り、大声で何かを叫ぶシーンを撮影した時のことです。
 目も眩むような崖っぷちで、その先に向かって飛び降りる彼女のプロ根性には敬服しました。さすがに命綱は付けていましたが、衣装のベルトに目立たない細いロープを縛っているだけです。私にはできません。(笑)

 

 

 撮影シーンの内容は、彼女の後ろでホバリングし、そこからアクションがスタートして彼女の右側を回って正面に行きます。そこで叫びがあって同時にドローンが斜め上に急に遠ざかる…、というカットです。
 つまり、カットの後半は主役の後ろが全部見えてしまうのです。スタッフは全員かなり後ろの林の中まで後退し、見切らないように姿を隠さなければなりません。監督も拡声器で指示を出します。

 

 でも、パイロットはそうは行きませんよね。そんなに離れることはできません。女優さんのそばを綺麗に旋回するためにできるだけそばにいたい。でもそれじゃパイロット自身がどうしても見切ってしまう。
 ちょっと揉めましたが、現場て監督以下スタッフの皆さんにその事情を説明して納得していただき、できるだけ目立たないように迷彩服に目出し帽といういでたちで、女優さんの数メートル後方で操縦することになりました。

 

 パイロットの近くに平坦な場所がないので、機体の離陸はさらにその数メートル後方。カメラ操作は後方の林の中という配置です。アシスタントがバッテリーを接続してパイロットに離陸を指示します。パイロットは身を捩るようにして16kgの機体を見ながら離陸させ、女優さんの数メートル後ろまで移動し、自分のすぐそばでホバリングさせます。その間にアシスタントは大急ぎで林の中へ。監督は映像を見ながら「よーい、スタート」と声を出し、演技を開始。「カット」が掛かるとスタッフが林からドドっと出て来て機体の着陸を待ちます。

 着陸したドローンからメディアを抜きだし、映像を確認する監督。みんながその表情を注視します。「うーん、いいかな…、」みんな心の中で「OK」とと言う言葉を期待しますが、「よし、もう一回行こう」となり、やっぱりそうかと納得します。やはりプロは厳しい。

 

 映画が公開され、最も気になっていたのはこのシーンでした。小林パイロットはどうなったのか。やっぱりバレちゃうんじゃないか。それとも一般の人には気づかないかななどと心配でした。
 ところが、一回目の鑑賞では「あれ? いない!」。二回目の鑑賞で、「あ、あの岩だ」と気づきました。ちょうど小林先生のサイズの岩が、主役の少女の後ろにありました。VFXのチームが小林パイロットを岩に変えてくれたのです。

 この作品、現在DVDで販売されている他、Amazon PRIME VIDEOでも見ることができます。機会があればこのシーンを見てみてください。そして、エンドロールのドローンチームの名前も確認してくださいね。(笑)

 

 ※写真の左が小林先生。右は筆者です。持っているのはこの映画でも使用したCinestar 8とそれに取り付けたMoviというスタビライザー(ジンバル)です。

 

横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士