amana drone school

コラム

Column

EPISODE14: IMU不全症候群

プロの空撮エピソードから学ぶ

 2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。

今回のテーマは「IMU不全症候群」です。


 最近のマルチコプター製品はGPSだけでなくビジョンセンサーや、中にはSLAM技術まで搭載して自律制御能力が高くなっていますが、それでも無人航空機に欠かすことができないのはIMU(慣性計測装置)です。

 IMUは3軸の角速度センサーと3軸の加速度センサーの組み合わせで移動体の動きを自ら把握します。これらのセンサーはここ数年に著しい性能向上とコストダウンが見られ、スマホやクルマ、バイク、ヘリコプターなどの航空機、ロボット、ミサイル、ロケットなどなどの機能向上に貢献しています。


 私たちが仕事を始めた頃はこれが厄介だったのです。アメリカ製の8発カーボンフレームを購入し、中国製のフライトコントローラーセットを搭載していました。とにかく選択肢がなく、一社の一製品を選ぶしかない状況の中、遊びに使うラジコンおもちゃのようなその製品でプロの仕事ができるのだろうかと不安を抱えたまま、しばらく頑張るしかなかったのです。

 


 当時のIMUはABS樹脂の箱の中に二つのセンサーの他に気圧計が入っていて、小さな穴が開いています。蓋を開けることはできず、その中を見ることはできません。仕事の冗長性を確保するため、3台程度の機体を準備する必要があり、全く同じ仕様のものをテストすると、それぞれに微妙な飛行の癖が出てきます。Pモードでのホバリングは基本的に位置を維持するはずですが、機体により一定の方向に流れる不安定なものが出てきます。GPSの揺らぎもありましたがそれを割り引いても差が出ます。この差はIMUの個体差に起因すると理解しています。


 マルチコプターをはじめとするドローンは、趣味のラジコンというより仕事に活用するという傾向が強くなり、メーカーも信頼性を上げる方向に動きました。IMUもまず筐体がアルミニウムになり、設置精度が向上しました。さらにユーザーレベルでキャリブレーションができるようになりましたね。やはり向上出荷時から変化が起きるようです。動きに癖が出てきたらこのキャリブレーションでゼロリセットすることで安定性を回復することができますね。いい時代になりました(笑)。


 IMUが壊れた(と思われる)ことも何度か経験しています。高度50m程度のスチール撮影で単にPモードでホバリングしていたとき、突然回転運動を始め、強い円運動になり、バランスを崩して墜落。落下途中に異常なパワーでプロペラが回り、カーボンのアームが自力で折れるという恐ろしいものでした。落下場所は休耕の畑なので、人的な事故にはなませんでしたが、暴走になっていたらと考えると背筋が凍る思いでした。

 


 現在ではプロ用の大型機を中心にIMUが複数搭載されるようになりました。また小型機でもプロ用途が考えられる製品では同じように複数のIMUが奢られていますね。複数のIMUを管理することで万一ひとつのIMUが異様な感知をした場合でもいきなり墜落することはなくなりました。


 とはいえ、日頃の動作確認は丁寧にお願いします。風がないときにビションセンサーを切ってホバリングするだけでも簡単な診断になります。おかしいなと思ったらキャリブレーション。キャリブレーションは何度でも大丈夫。パソコンの再起動みたい(根拠はありませんが)に何度かすると良くなることもあります。どうしても不安が拭えない時は飛行をやめてメーカーに相談しましょう。

 

横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士