Column
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。今回のテーマは「ビジネスマネージメントその1=保険」です。
空撮チームを立ち上げた当初、我々は自分たちで組み上げたドローンを使って、プロとしての仕事に挑戦してきました。今となって振り返れば「なんと無謀な!」と言われそうなことも数多く経験し、幸にというか、奇跡的にというか、大きな事故は無く、クライアントとのトラブルも無く10年余りが過ぎています。
そんなリスクの大きいビジネスにチャレンジする時、やはりそれなりに備えをするのが大切であり、その姿勢は今日のようにハードやソフトが進歩して操作が簡単になり、安全性も向上しても変わらないはず。そこでしばらくは「ビジネスマネージメント」というテーマでこれまでのエピソードをまとめることにします。特にプロとしてドローンを活用する方々にとって少しでも参考にしていただければ幸いです。
まず第一に克服しなければならないのは機体の信頼性でした。チームのメンバーと認識を共有したのは「落ちない飛行機は無い」という言葉。裏を返せば「いつ落ちても不思議ではない」ということです。これはライオンに芸をさせるサーカスのようなもの。自分に落ち度がなくても自分や観客が襲われるかもしれない。懸命な経営者なら「そんなリスキーなことはビジネスじゃない」と判断しそうなことです。
このようなリスクに敢えて挑戦するのですから、なんと言っても保険の備えが必要です。人を傷つける、人のものを壊すという事態になった時、十分な賠償ができるようにすることです。これはチャレンジャーとしての責任と言えます。
10年前はドローンが認知されずに保険加入が困難でした。やっと入れた保険も法外な保険料を取られました。でも今はドローン専用の保険商品も充実していて、保険料もリーズナブルになっていますから、もうこれはドローンビジネスの必須項目として考えましょう。
「スタッフも対象の対人、対物保険」
保険に加入する際は、どこまで保証されるのかという範囲を確かめるのも大事です。例えば通常の保険では保険の対象となるのは「第三者」の人身と所有物で、チームメンバーやスタッフは対象になりません。特に動画の撮影スタッフは大人数になりますので、第三者よりスタッフの方が危険な状態になります。被写体となる演者さんはじめ、スタッフの怪我にも備えられるような内容の保険に加入しましょう。保険金額は多いに越したことはありません。自動車の運転に関わる任意保険では「無制限」が当たり前の状況です。ドローンはさらに公共交通機関に影響を与えるという可能性も加わると考えれば「無制限」か、少なくとも10億円程度は欲しいところです。
「借用機材の損害賠償」
撮影現場にはレンタルの機材がたくさんあります。その上ドローンによってはレンタルのカメラやレンズ、レーザー計測器などを搭載することも出てきます。ちょっとしたハードランディングでも傷を付けたり故障につながることもあります。それらもカバーできるように備えましょう。
「施設賠償保険」
ロケ現場の施設に対する保険です。これは施設の存在価値によって保険料などの条件が変わることがありますので、現場ごとにスポットで加入するのも良いでしょう。例えば学校の校舎や工場の外壁などと比べてテーマパークのアトラクション施設などは保証も高額になります。場合によっては休業補償なんてこともあり得ますから、当然保険料も高額になりますね。基本的な保険に入っているから大丈夫なんて思ってると痛い目に遭いますよ。
「動産総合保険」
車で言うと車両保険にあたります。使用機材の補填に充てる資金ですね。これは自分自身への備えですから必須ではありませんが、最初は多めに、さらに経験を積んでどの程度の予算が適当かを見極められるようであればその範囲で備えましょう。
保険の商品名や呼び名は各保険会社ごとに様々なので、目的を伝えてそれぞれの目的を満たすものを見つけてください。それではご安全に。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士