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コラム

Column

EPISODE5: ヒモ付き飛行の注意点

プロの空撮エピソードから学ぶ
 2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。

 

今回のテーマは「ヒモ付き飛行の注意点」です。


 「絶対に落ちない飛行機は無い」というのが我がチームの根源的なテーマです。撮影を受注するという仕事では様々な要求を受けることになりますが、いつ落ちるかわからない機体を想定して安全にそれらを実現できるよう仕事を組み立てなければなりません。

 その一例で特殊な施策を施した仕事がありました。都心の某百貨店の屋上でドローンを離陸させます。垂直に上昇するだけの単純な飛行で、撮影は屋上の有名なロゴマークを舐めて、さらに上昇すると周辺の様々なランドマークが見えてくるという絵を撮ります。
 飛行は単純ですが、場所が怖い。都心の真ん中で繁華街。しかも周囲は全て交通量の多い公道です。高度を考えると屋上の面積も狭く感じます。さらに都心部のビル街では電波障害も起きがち。屋上には色々なアンテナも乱立しています。もしコントロールができなくなったらどうしよう。最悪の事態を想像するとゾッとします。

 

 

 そこで我々はヒモ付きで飛ばすことにしました。切れないヒモを付けておけば最悪の場合でも地上に落下する前に途中でぶら下がり、人や車にぶつけずにすみます。しかしヒモをつけることによる新たなリスクも生まれます。想像力を働かせて万全の準備をしなければなりません。

 まずはヒモの選択です。できるだけ軽く、嵩張らず、捌きが早く簡単にできるものが理想です。また落下時のことを考慮し、機体重量の4倍程度の重さに耐える強度が必要です。すぐに釣り糸を思い浮かべました。釣り糸ならリールを活用できて、繰り出し、巻き取りが素早くできます。
 この時使用した機体は360度撮影の特殊なカメラを積むために作成した、比較的小型のものだったので一般的な太めのみち糸で十分でした。糸の強度はお店の人に確認しましょう。みち糸が決まったらそれに適したリールを使用します。

 

 次にそのリールをどうやって操作するかですが、やはり分割式の釣竿の手元の一部を利用するのが早いようです。リールの固定とその保持には釣り竿が一番です。

 

 さあ、ここでひとつ目の注意ポイントです。釣りをされる方はご存知のはずですが、リールの釣り糸には常にテンションが掛かっていないといけません。適度な力で糸を引っ張る力です。このテンションがなくなるとリールの巻付けがグズグスになり、リール内で糸を絡ませることになります。釣り竿のしなりはこのテンションの維持のためにあるのですね。一瞬でもテンションがなくなると糸のトラブルや針が獲物から外れたりします。
 しかし、ドローンの方は常に引っ張り気味というわけにはいきません。それこそ飛行制御に影響してしまいます。テンションを与えるのは最悪の場合のみです。

 そこで、竿の手元部50cm程度の竿の先端にバックスキンを取り付け、テグスをバックスキンで挟むようにしました。挟む強さを加減して、繰り出しの抵抗も無く、リールも緩まないように調整します。リールとバックスキンの間は糸が張った状態を維持できます。

 

 次にふたつ目の注意点、それは糸がプロペラに絡むという恐ろしい事態を防ぐことです。ナイロンのテグスは太めと言っても軽いものです。糸に余裕を持たせすぎると風などで舞い上がり、ドローンのそばに近づくことも考えられます。そこで糸の途中、ドローンから2mぐらい離れた位置に50円硬貨を付けました。これにより糸が機体の近くに舞い上がるのを防ぎます。

 

 あとは実地テストです。安全な場所でリール操作の担当者が糸の繰り出し巻き取りの練習をしました。ドローンにテンションを掛けないように、上昇速度のとの兼ね合いを確認しておきます。安全への施策は想像力が大事。限られた時間の中でベストを尽くすには、どれだけの事態を想定できるか、そしてそれらの事態にどのように対処できるかが鍵です。「準備は臆病に、フライトは大胆に」これが私のモットーです。

 

※写真は本文と関係ありません。

 

横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama

1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。

【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV

■実績  総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間

■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士