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コラム

Column

REVIEW1: Airpeak Baseへの期待

Japan Drone 2021でSONYの「Airpeak S1」が発表され、業界の枠を超えて大きな注目を浴びている。注目を浴びた要素としては以下のようなポイントが挙げられる。

 

・SONYが国産ドローンを量産する!?
・プロの空撮用途をターゲットにした製品でαシリーズを載せる!?
・各種センサー類、IMU、ESC、モーターからプロペラまでほとんどを独自開発!?

 

 10年近く前からドローン市場の成長が取り沙汰されながら日本の大手企業が参入を躊躇する中、いち早く本格的な製品、いやシステムまでを完成させて先手を打ったのはさすがだと、SONYを称賛する声を多く耳にする。ものづくり大国と言われた日本が、そのお株を他国に奪われて久しいが、世界で75%、日本では95%を1社が占めている市場に、ほぼ自前の技術のみで切り込んでいく企業姿勢に溜飲を下げる人もいるだろう。

 

 そんな経済界的な話はさておき、ここでは多くの経験を持つプロとしての立場から「プロ用途」という点を深掘りしてみたい。動画撮影でもプロからの評価が高いαシリーズの資産をそのまま活用できることもSONYの強みであり、大きな魅力でもある。ドローン本体としてはデュアルオペレーションやフェイルセーフ、ある程度の障害物回避機能などはあって当然の機能。それらのブラッシュアップもさることながら、やはり従来の既存製品にはなかった魅力、「これが欲しかった」という魅力が欲しいところだ。

 

 筆者が注目したのは「Airpeak Base」の存在だ。通常のシステムは機体、コントローラー、モバイルデバイスとそのアプリの三つで構成されるのが基準だが、S1ではもうひとつAirpeak BASEというWebアプリが加わる。このアプリでは飛行ログ管理、飛行プラン作成、各デバイスの記録管理などができるもので、プロの運用には必須の機能がまとまっている。
 この中でも大きな期待が膨らむのは飛行プランの作成。そのポイントはふたつある。データマップ上に任意の飛行ラインを描けるものと思うが、まず一つは既存の飛行ログをベースに作成可能というところ。もう一つは飛行ラインに「ベジェ曲線」が生成されるという機能。これはプロが長年夢に描いていた機能だ。

 

https://www.sony.jp/airpeak/tool/

 

 CMやPVの撮影では作者や演出監督の意図する絵作りが必須となり、プロの操縦者としてはその意図を正確に理解し、それを実現する技量を持つ必要がある。しかし時としてその要求が困難を極めることがある。代表的なひとつ、それは「飛行の精密な再現」だ。
 ライン取りはもちろん、高度変化、スピード、カメラワーク全てを精密に再現することができれば、例えばワンカットのフライト中に春夏秋冬の四季の移り変わりを繋いだり、一人の演者が何人もいるような表現処理が違和感なくできる。

 

 これまで我々が使用した自作の大型機や最近の既製品でも、データマップ上で飛行ラインを設定して複数回飛行させることはできた。しかしこれは「ウェイポイント」という「通過点」を決める方法で、GNSS的に決められた地点を辿る。これはあくまで「点」なので、ラインは直線の集まりにしかならない。滑らかなラインを作るの数多くの点を決めることになり、限界がある。機体の動きもギクシャクしてロボット撮影的なものになる。測量や定点観測には使えるものの、撮影業務としては生産性も悪く実用的では無い。

 

 Airpeak Baseの存在はSONYの本気度を表していると言って良いと思う。プロが実際にいくつもの現場を経験する中から滲み出てくるような要求と欲求があり、その重みを理解しないとここまで周到な準備は不可能だから。

 もちろん、筆者は完成された製品を運用したわけではないので、あとは実際の使い勝手がどうなのか確認しなければまだ喜べない。ただ、現時点ですでにSONY自ら改善目標を掲げていることも評価したい。バッテリーの持続時間、通信の安定性などの問題点、さらにRTK機能の提供や撮影以外の用途への対応などを具体的に描いている。力強い開発意欲にプロユーザーとして期待が膨らむ。

 

 

横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama

1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。

【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV

■実績  総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間

■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士