EPISODE1: モーターの熱にご注意
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズで届けます。
第一回は「モーターの熱にご注意」です。
これから気温が上がり、日差しも強くなりますのでこのテーマにしました。
マルチコプターで使われるブラシレスモーターは永久磁石に「ネオジム磁石」(注1)を使用しています。この磁石は小さい体積でも強い磁力を持つのが特徴で、永久磁石で最強の磁力を発揮します。力の必要な電動自動車などのモーターや、小さくてもパワフルなイヤフォンのドライバーなどにも多く使われています。
この磁石の欠点は高熱に弱いという点です。このことは頭の隅に置いておきましょう。一般的に多い「フェライト磁石」はおよそ450度Cから磁力が減少しますが、ネオジム磁石は300度C程度で消磁してしまいます。文献では220度あたりから磁力減少が始まると読んだ記憶があります。
いうまでもなく、モーターは界磁の磁力が低下すると回転力も低下します。推進力が低下するとバッテリー消費が多くなったり、さらには高度が上がらず飛ばなくなります。特に複数のモーターを使用するマルチコプターでは少しの変化でもバランスを崩し、コントロールができなくなる可能性があります。
夏の瀬戸内海の島で長期間撮影したことがあります。待機中に強い日差しを受けて、すでにモーターはアイロンの状態。7kgを超えるカメラを持ち上げる8発機はパワーの低下が禁物です。そこで我がチームでは2機の機体を交代で使用しました。さらに3機目もスタンバイ。ピットクルーはバッテリーの充電とモーターの冷却を繰り返します。
CMや映画の撮影ではゆっくりした動きを何度も何度も連続して繰り返すことが多いので、モーターも空冷が満足にできません。夏は特に気温も高く、機体を休める日陰もなく、監督の指示にしたがって飛ばしているとモーターも悲鳴をあげます。また風向きや飛行の内容によっては特定のモーターだけが異常に発熱することもありますね。パイロットもオーバーヒートしますが…。
バッテリーあたりの飛行時間が短くなったり、上昇力が弱くなったりという現象に気づいたらモーターを休ませるようにしてください。できれば複数の機体を用意して、ローテーションにするのが理想的ですね。
もう一つ、ある工場での撮影で、ボイラー棟の排気煙突近づいたときの特殊なエピソードです。正確に排気温度を計測することはできませんでしたが、レーザーの非接触温度計で煙突の口の部分は200度以上あったと思います。そこに機体を近づけていたら、操縦不能になったことがあります。幸い、駐車場のクルマの間にハードランディング(笑)したのでことなきを得ました。
一部のモーターの回転力が変わって、バランスを取りきれなくなったためと推測します。再現実験などが困難なため、確証はありませんが、状況的には高温が原因としか考えられない事象でした。
最近の市販製品はペイロードに余裕のある設計と思われますが、それでも炎天下のヘビーローテーションにはご注意ください。
注1:ネオジウムという表記もありますが、本来はネオジム。英語圏での発音はニァディミァム。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士
EPISODE2: 機体を見失う恐怖
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズで届けする第二回目。
今回のテーマは「機体を見失う恐怖」です。
岩手県の雫石の山の中に深い渓谷を渡る大きな橋がありました。橋の上から渓流までは30mほどあります。10階建てのビルくらいですね。遥か下の渓谷の流れにできるだけ近づけてから上昇し、渓流を舐め上げて、遥かな山並みを撮るという動画の撮影です。渓流まで下りて行けそうもないので、我々はその橋の上から離陸させ、高度を下げて渓流目指して降下させることになりました。飛行するドローンを上から見るのは初めてのことでした。嫌な予感がします。
10mも下さないうちに言い知れぬ恐怖に襲われます。薄暗い谷底を背景にした機体はLEDが一切見えず、背景に溶け込んで見えないのです。操縦者にとって機体を見失うことがどれほど怖いことか。
手元のモニターに表示される高度計はマイナス高度が増えるばかりで、参考になりません。谷底に降りるためにGPSの数も減っていきます。こんな状況でAモードになったら完璧にアウトです。撮影画像だけを見ているカメラオペレーターは「もっと下がって」と言いますが、操縦者権限を発動して「もうだめ」と宣言しました。
市販のマルチコプターは機体の向きを示すLEDライトが備えられていますが、下向きについているものが多いようです。これは操縦者が飛行中の機体を「下から見上げることが多い」ということを表していますが、実際の業務の中では上のような例外的な運用が出てきます。つまり操縦者の位置より低い方向に飛行させるケースです。その場合は機体のLEDライトが見えなくなります。
airvisionチームが当時使用していた機体は大型の自作機で、遠距離でもしっかり確認できるようにいくつものLEDを装着しましたが、やはり下から見えるようにすることだけを考慮していました。
もう一つの事例は千葉県の海沿いでした。灯台のある小高い丘の上から、600mほど離れた漁港が見下ろせます。その撮影はその灯台から港に向かって降りていく人物目線の映像を撮影します。丘の上にいる操縦者から見れば自分の位置より低い方へ飛んでいくわけです。
この時も機体が森や家並みを背景にして上から見下ろすことになり、視力の良い操縦者でも見失います。対策として上からでも見える大きめのLEDを追加装備して視認性を上げました。それでも距離が離れて小さくなると機体の把握が困難になります。このときの操縦者は「双眼鏡を頭に付けたい」と言っていました。
機体の背景が空ではなくなるということは大いに起こり得ます。山や街並みなど背景が複雑になることは、高度が低くなると必然的に起きますね。まして距離が離れれば見失うのは容易です。最新の機体はFPVカメラを備えたものや障害物センサーなどを備えていますので、それらの機能を正しく設定し、冷静に慎重に対処すれば事故は回避できるでしょう。ただし過信は禁物です。いざという時に慌てないためにも、練習の機会に低い方に飛ばすなどの経験をしておくとなお良いと思います。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士
EPISODE3: 鳥との戦い
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けする第3回目。
今回のテーマは「鳥との戦い」です。
長くドローン空撮の仕事をしていると、飛行中の機体に鳥が近づいてきてハラハラすることが幾度となくあります。良く近づいてくるのは鳶(トビ=とんび)、鷹(タカ)、鷲(ワシ)、カラスといった種類が多いようですが、いずれも自分の縄張りを守ろうとしたり、繁殖期にはヒナがいる巣を守る行動だそうです。
鳶、鷹、鷲はタカ科タカ目で同じ仲間ですが、我々素人には区別がつきません。この種類は遠巻きに周囲を回って観察するだけで、攻撃されたという経験はありません。同じ鳥の仲間ではないと確認すると関心がなくなるのかもしれません。
経験上危険を感じるのはカラスです。カラスも知能の高いことが知られています。繁殖期はナワバリ意識が高くなり、異種の大型の鳥でも果敢に攻撃します。複数のカラスがチームプレーもするそうです。単体ならそれほど心配は無いと思いますが、カラスのグループが近づいてきたら飛行を中止してしばらく様子を見たほうが良さそうです。
写真はあるロケで鷺(サギ)と思われる鳥に異様に絡まれたときのものです。鳶のような鳥はたくさん経験がありますが、鷺が来るのは珍しく、この時以外は記憶がありません。接触まではしませんでしたが、意外としつこく接近してくるので、飛行を一時中止するハメになりました。もしかしたら繁殖期で近くに巣があり、ヒナがいたのかもしれません。
このように、ドローン近づく鳥に異様な行動が見られた時の対処法ですが、残念ながらこれといった決め手は無いようです。我々は幸い鳥によって墜落という事態にはなっていませんが、海外では体当たりを受けて共に落下なんていう事例もありますね。海外も含め、諸説ある鳥対策のアドバイスで共通したものをまとめると以下のようになります。
まずはすぐに高度を下げないようにしましょう。高度を下げると相手にとっては攻撃のきっかけになる可能性があります。高度を維持して着陸目標の上空に戻るようにしたほうが良いでしょう。
また、この理屈を利用して、一度機体を急上昇させるのも効果があるそうす。鳥は自分の高度より上の物は攻撃しにくいそうで、相手に高い位置を取られると態勢を整えるために一度離れるそうです。少し離れたら、その間に高度を維持したまま離陸地点に戻りましょう。
マルチコプターはモーターの回転数を変化させると唸り音が発生しますが、これを利用して威嚇したら良いという説もあります。操縦者の性格によってはありがちな対応ですが、危険な操作をすることになり、よほどの上級者以外はお勧めできません。それに、相手を刺激することになり、場合によっては返り討ちなんてことになるかもしれません。
空を飛ぶ機械はどれもデリケートですが、特にクワッドはひとつのプロペラを一瞬邪魔しただけで即墜落します。皆様の幸運をお祈りします。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士
EPISODE4: 紫外線は百害あって一利だけ
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。
今回のテーマは「紫外線は百害あって一利だけ」という、経験からのご注意です。
紫外線は年間を通して地球に降り注いでいますが、特に5月6月あたりから強くなりますね。近年、紫外線は皮膚に良く無い、目に悪い、老化の元、癌の元などという認識が強くなっていて、子供にも注意する親御さんが増えています。唯一、体のためになるのはビタミンDの生成ですが、これは普通の日常生活で満たされるので、紫外線はほぼ悪者といえます。
ドローンの目視操縦は、日常生活ではあり得ない長時間空を見つめることになります。普通のロケでも陽を浴びる時間が長いわけですが、ドローン空撮の操縦者とスタッフは目から入る紫外線が圧倒的に多くなります。若いうちは影響が表面化しないので軽視しがちですが、蓄積は確実に進んでいて、この影響が加齢と共に後で出てくるのです。歳とってから後悔しないように。笑
紫外線にはUVA、UVB、UVCという種類があり、それぞれ体に与える影響も違うようです。細胞核のDNAを破損させるのはUVB。UVBはDNAに損傷を加えて発癌の元になるので怖いです。
さらに危険と言われるUVCは地表にはあまり届かないそうです。
UVAは最も長期間浴びる紫外線です。ヒトはUVAを浴びるとメラニンを生成します。これは紫外線の侵入を防ぐための自然な反応だそうですが、生成量は個人差や民族間でも差があります。皮膚が紫外線を浴びると多くの場合は後に褐色を帯びてきます。褐色にならない人もいますが、赤くなるだけで褐色にならない人の方が危険と言われています。 逆に普段から肌がやや褐色が強く、陽に当たってもほとんど炎症期が無いという人は紫外線に強いということになますね。
紫外線によって生成されたメラニンは、沈着したり潜在した後にシミとなって顔ばかりでなく体中に出てきます。また皮膚のハリを保つ弾力層を破壊し老化を促進します。シミは治療で消せたりしますが、一度破壊された弾力層は再生されないそうですから、若さを保ちたい人は気をつけてください。
紫外線は操縦者の命である眼にも良くありません。網膜を傷めたり、眼の病気に繋がったりします。網膜を痛める飛蚊症がひどくなり、部分的にぼやけたりしてきます。
また「目から入り込んだ紫外線は体中に悪さをする」という人もいます。悪性腫瘍など、UVBがDNAを破壊することに起因するものだということです。
眼を守るにはできるだけ広角をカバーするUVカットのサングラスなどが必要です。メガネの脇や周囲が空いているとそこから紫外線は入り込んできます。またガラスレンズよりポリカーボネイトなどの樹脂レンズがUVカットに有効だそうです。同じ理由からコンタクトレンズは紫外線カットに有効だそうです。
また、カメラレンズと同じで、レンズそのものに光が当たるとフレアーが発生し、スッキリと見えなくなります。ツバのあるキャップなどをかぶって、できる限りレンズに光が当たらないようにしましょう。特にメガネレンズの内側に光が入るとその内面反射が色を発生して大変見にくくなります。操縦中に思わぬ事態で慌てないように注意しましょう。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士
EPISODE5: ヒモ付き飛行の注意点
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。
今回のテーマは「ヒモ付き飛行の注意点」です。
「絶対に落ちない飛行機は無い」というのが我がチームの根源的なテーマです。撮影を受注するという仕事では様々な要求を受けることになりますが、いつ落ちるかわからない機体を想定して安全にそれらを実現できるよう仕事を組み立てなければなりません。
その一例で特殊な施策を施した仕事がありました。都心の某百貨店の屋上でドローンを離陸させます。垂直に上昇するだけの単純な飛行で、撮影は屋上の有名なロゴマークを舐めて、さらに上昇すると周辺の様々なランドマークが見えてくるという絵を撮ります。
飛行は単純ですが、場所が怖い。都心の真ん中で繁華街。しかも周囲は全て交通量の多い公道です。高度を考えると屋上の面積も狭く感じます。さらに都心部のビル街では電波障害も起きがち。屋上には色々なアンテナも乱立しています。もしコントロールができなくなったらどうしよう。最悪の事態を想像するとゾッとします。
そこで我々はヒモ付きで飛ばすことにしました。切れないヒモを付けておけば最悪の場合でも地上に落下する前に途中でぶら下がり、人や車にぶつけずにすみます。しかしヒモをつけることによる新たなリスクも生まれます。想像力を働かせて万全の準備をしなければなりません。
まずはヒモの選択です。できるだけ軽く、嵩張らず、捌きが早く簡単にできるものが理想です。また落下時のことを考慮し、機体重量の4倍程度の重さに耐える強度が必要です。すぐに釣り糸を思い浮かべました。釣り糸ならリールを活用できて、繰り出し、巻き取りが素早くできます。
この時使用した機体は360度撮影の特殊なカメラを積むために作成した、比較的小型のものだったので一般的な太めのみち糸で十分でした。糸の強度はお店の人に確認しましょう。みち糸が決まったらそれに適したリールを使用します。
次にそのリールをどうやって操作するかですが、やはり分割式の釣竿の手元の一部を利用するのが早いようです。リールの固定とその保持には釣り竿が一番です。
さあ、ここでひとつ目の注意ポイントです。釣りをされる方はご存知のはずですが、リールの釣り糸には常にテンションが掛かっていないといけません。適度な力で糸を引っ張る力です。このテンションがなくなるとリールの巻付けがグズグスになり、リール内で糸を絡ませることになります。釣り竿のしなりはこのテンションの維持のためにあるのですね。一瞬でもテンションがなくなると糸のトラブルや針が獲物から外れたりします。
しかし、ドローンの方は常に引っ張り気味というわけにはいきません。それこそ飛行制御に影響してしまいます。テンションを与えるのは最悪の場合のみです。
そこで、竿の手元部50cm程度の竿の先端にバックスキンを取り付け、テグスをバックスキンで挟むようにしました。挟む強さを加減して、繰り出しの抵抗も無く、リールも緩まないように調整します。リールとバックスキンの間は糸が張った状態を維持できます。
次にふたつ目の注意点、それは糸がプロペラに絡むという恐ろしい事態を防ぐことです。ナイロンのテグスは太めと言っても軽いものです。糸に余裕を持たせすぎると風などで舞い上がり、ドローンのそばに近づくことも考えられます。そこで糸の途中、ドローンから2mぐらい離れた位置に50円硬貨を付けました。これにより糸が機体の近くに舞い上がるのを防ぎます。
あとは実地テストです。安全な場所でリール操作の担当者が糸の繰り出し巻き取りの練習をしました。ドローンにテンションを掛けないように、上昇速度のとの兼ね合いを確認しておきます。安全への施策は想像力が大事。限られた時間の中でベストを尽くすには、どれだけの事態を想定できるか、そしてそれらの事態にどのように対処できるかが鍵です。「準備は臆病に、フライトは大胆に」これが私のモットーです。
※写真は本文と関係ありません。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士
EPISODE6: 離着陸のトラブル
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2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。
今回のテーマは「離着陸のトラブル」です。
ドローンの離陸と着陸は水平で十分に広い場所が欲しいですよね。傾斜だけでなく、草が伸びていたりホコリや砂が多くても不安です。一般的にちょっとした機体の破損は離着陸の際に起きることが多いのです。最近の製品では小型でもプロ向けの撮影データが撮れるようになってきたので事情が変わってきましたが、デジタルシネマカメラを積む大型機を使っていた当時の私たちにとって離着陸場所の問題は重大でした。
実際のロケでは水平で理想的な場所が無いことが多く、とんでもなく遠い場所から離陸したり、傾斜地で危うい離陸を強いられたり、砂が舞い上がってえらい目にあったりと、離着陸のトラブルのネタは尽きません。
ほとんど岸壁しかない東尋坊ではわずかな草地を見つけてドキドキの離着陸を強いられました。春日大社では本殿の撮影に300mも離れた場所から離陸し、遥か彼方に飛ばしました。山形県の某山中ではグズグズのぬかるみから離陸して機体の脚をとられ、離陸を失敗したこともあります。(水平な場所で離陸できなかったこともありますが、これは別なお話なので後日…)
いずれも直径120cm、重量16kg、搭載カメラ600万円、装着レンズ200万円という状態のドローンです。何度経験しても嫌な汗をかきます。
さらに特殊な例は船の上からの離着陸です。撮影にお借りする小型船の多くは甲板にほとんど水平で広い場所が無い上、常に上下に、しかも不規則に揺れています。我がチームのエースパイロットである小林先生でも緊張を敷いられる一瞬です。写真はその船上の離着陸用に水平なデッキを特設した例です。
上下に揺れる船では船が下がる時に着陸しないと静かな着陸ができません。海上は風も強いのでそのタイミングと機体の位置どりを間違えると姿勢を崩し、思わぬ事故につながります。
というように大型機ではさんざん苦労しましたが、やがて我がチームの主力機がDJIのインスパイア2になると状況が一変します。現場の装備全体がコンパクトになり、多少の傾斜も気にすることなく、離着陸のスペースも少なくて済むようになります。それにインスパイアならサイズも重量もハンドリリースが可能なレベルになりますので、離着陸場所の問題は大幅に改善されます。
ハンドリリース&キャッチは状況によっては大変便利な離着陸方法になりますが、同時に危険が伴うので基本的にお勧めはしません。それでもという場合は機体のどの部分をどうやって持つかしっかり確認してから実行するように。そしてキャッチャーはヘルメット、革手袋、保護メガネ、長袖の服などで体を防護することも必要です。特にキャッチの際はプロペラ止まるまで機体を水平に支持しておきます。止まる前に機体を傾けるとセンサーが反応して急に回転が上がったりして危険です。
パイロットはスロットルを上げるタイミング、止めるタイミングをしっかり確認して、声を掛け合って操作しましょう。安全な場所でちゃんと練習してくださいね。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
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EPISODE7: 高原の霧
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2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。
今回のテーマは「高原の霧」です。
梅雨が明けて夏空が始まる頃から、秋の気配が感じられる頃まで、標高の高い場所では濃い霧が発生しやすくなります。関東圏では箱根や軽井沢、日光のいろは坂などのドライブで経験された方も多いのでは無いでしょうか。
高原の霧は気温の高い湿った空気と高い場所の冷気が接触して発生するものや、低い場所の湿った空気が風に押されて山を這いあがり、気圧の低い場所で膨張して濃い霧を作るものなどがあります。前者は早朝から午前中に多くみられますが、後者は時を選ばず、急に発生します。この急に発生する「滑昇霧」と呼ばれる霧が厄介です。
写真は福島県の「つばくろ谷」(ヤクルトのつばくろうとは関係ありません)という渓谷の展望台で、下の方から近づく霧を撮ったものです。標高の高い場所は紅葉の始まりが早く、遠く裾野の平野まで見渡せる景勝地です。これを撮った数分前は裾まで見えていて、1分後には2枚目の写真のように辺り一面真っ白。エースパイロットの小林先生も成す術無く、文字通り見通しの立たない休憩タイムに入ります。
「滑昇霧」の怖いところは変化が急だということ。下に見える雲のようなものが移動してくるのではなく、雲が来たなと思うと同時に目の前に雲ができるという感覚で真っ白になるのです。つまり、目の前で霧が生まれるわけです。しかも濃度が高いことが多く、視界10m程度になることもあります。
ドローンの飛行中にこれが発生すると目視外飛行になることはもちろんですが、FPV映像も真っ白になるのでまさに五里霧中状態。RTHを掛けてお祈りするしかありません。
一般的にも山の天気は急変すると言います。霧も尾根を一つ越えるとスッキリ消えたりしますね。霧だけでなく風向きやその強さ、局所的な風の通り道なども地形や樹木の影響を受けて想定外の変化を見せることがありますので注意が必要です。
標高の高い高原は絶好の被写体も多くなりますが、急に発生する霧には是非ご注意ください。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士
EPISODE8: 寒冷期のフライト
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。今回のテーマは「寒冷期のフライト」です。
季節外れのテーマで恐縮です。寒い写真と寒いお話しで冬の寒い時期に思いを馳せ、少しでも涼んでいただければ幸いです。寒冷期の撮影業務はバッテリーの心配が一際高まってきます。特にドローン撮影では飛行時間に影響があるので神経を使いますね。
ドローン空撮で私が最初に低気温の怖さを知ったのは2012年頃の冬でした。軽井沢の信濃追分宿近くにある「御影用水温水路」という人工水路があります。稲作用の用水の温度を日差しで上げるための水路で、浅くて幅が広い不思議な風景の水路です。ここが冬の寒い時期になると水面に水蒸気を溜めて幻想的な風景になるという話を聞き、せっかくなら雪が積もった風景を撮りたいとチャンスを窺っていました。
ある日、東京でも結構な積雪となる雪が降り、チームメンバーと夜にスクランブル発進。この時は航空法が改正される前なので許可申請などは必要なく、いつでもOKでした。
明け方の軽井沢に着くと早速撮影開始。寒いとバッテリーが保たないことは知っていましたので、できるだけ冷やさないように、直前に満充電して…と、満を辞して離陸したら、離陸した途端にバッテリーアラートが点滅。「えっ! そんなバカな!」と思わず叫んで慌てて着陸。
気温は2度程度だったと記憶しますが、「なんで?」と疑問を抱えながらも、マジックアワーは待ってくれません。すぐにバッテリーを交換して再チャレンジ。今度はアラートも出ず、大丈夫。「OK、OK」と少しほっとした頃にやはりいつもの半分以下でまたアラート。
結局、3回目以降は約7割程度に安定しましたが、最初の2回は想像を越える現象で驚きました。原因は不明ですが、モーターやESCのコンデンサーによる内部抵抗が大きかったのではないかと考えています。数回飛行して機械内の温度が上がると飛行時間が伸びたので、そのように推測しています。
この経験を生かし、スキー場などでの撮影では対策を強化しました。まずバッテリーの保管は加熱保管します。積極的に温度を上げるという意味です。加熱といってもヒトの体温程度を上限とします。そこで我々はクーラーボックスの中に湯たんぽを入れました。湯たんぽといってもシリコン製の柔らかいもので、フリースなどのカバーが付いたもの(通販サイトで買えます)です。これに熱湯を入れてバッテリーと共にボックスに入れるとちょうど良い温度で加熱保管できます。湯たんぽは温度が徐々に下がるだけで不用意に高温になる心配が無いという点でもおすすめです。
ポケットカイロなどを使う方もいますが、温度管理ができないので高温になり過ぎる危険性があります。また酸素が無いと熱を出さないので、クーラーボックスなどで密閉すると熱が出なくなります。電気式の保温ボックスなどは温度管理に注意してください。缶飲料用だと温度が高過ぎるのでバッテリーが劣化したり、場合によっては発火などの危険性が出てきます。
少し大きめのクーラーボックスに入れると温度ムラもなく安全に保管できます。カメラやモニター用など他のバッテリーも同様に保管しましょう。様々なインテリジェント機能を備えたDJIのバッテリーもこの方法は有効です。
さらに機体に装着する際にバッテリーそのものを断熱材でカバーします。薄いウレタンシートやアルミ蒸着シートなど、装着に支障の無いように工夫が必要ですね。DJIの専用バッテリーなどは形状的に余裕がないので、カバーは空いている場所にシールを貼る程度になります。
そして本番前に数回の飛行で機体のウォームアップをします。初回の飛行は短くなることを想定して注意してください。
軽井沢の体験は業務外だったので幸運でした。極端な気温、気圧、風など、業務外であらかじめ経験を積んでおくことはとても大事です。いきなり業務で初体験するのはプロとしての信用を損なうという意味でも大変危険ですね。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士
EPISODE9: 2オペあるある
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2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。
今回のテーマは「2オペあるある」です。
「2オペ(ツーオペ)」はドローンの操縦とカメラなどの操作とを別々に2人で担当する運用方法です。最近は「デュアルオペーレーション」とも言われていますね。2オペはドローンのコントロールを操縦とカメラワークに分ける機能が必要なので、その機能が無い機種ではできません。DJIの製品で言うとインスパイアより上位の機種が必要になります。
ある時、ボートレース場での撮影がありました。楕円形に周回するコースには2箇所にターンの場所を示す大きなパイロンがあります。そのパイロンの真上にホバリングしてターンしていくボートを真俯瞰で撮影する時に事件が起きました。パイロットは自分から見て奥行きの方向は誤差が分かりづらいですが、左右のズレは分かりますよね。迷わずパイロンに向かってまっすぐ進行させていきます。カメラマンはカメラを真俯瞰に向けてパイロンの位置を狙い、パイロットに指示を出そうとします。ここで問題が起きました。
カメラマンが「飛行ラインから右にずれているので左へ行け」と指示を出したのです。パイロットは「はぁ?」となります。ドローンはパイロット目視でコーンの真上にあります。前後のズレは指示に従うが、左右はズレるはずがない確信しているのです。パイロットはカメラの向きを疑います。「ちゃんと真俯瞰になってないんじゃないの?」カメラマンはあくまで画面の見た目を重視します。コーンの真上感が大事です。それが実際の真上じゃなくてもいいのです。なので「いいから移動してくれ」となります。飛行中は詳しい説明をしている余裕は無いので会話が命令調になります。
パイロットがカメラマンの指示に従うのが基本です。なので立場的にカメラマンの方が上にある状態の組み合わせがスムーズに仕事が進みます。年齢、経験、専門性、実績など…。これが逆の状態だとトラブルになりがちです。信頼関係って大事てすよね。指示を出すカメラマンはドローン操縦の事情を熟知する必要があります。パイロットが的確に理解できる言葉で指示を出すためです。移動の方向は特に大事。パイロットから見た方向を考えて指示しなければなりません。「さがって」などの曖昧な言葉は禁句です。カメラマンは監督の指示を受けますので、通訳が大変なんです。大変ですがこれが仕事です。また操縦のニュアンスも大事。操縦を知っているカメラマンは「その移動を維持したまま、すこーし上昇の要素を入れて」などとスティック操作の表現ができます。
言うまでもなくワンオペでも撮影は可能ですし、仕事だってできます。ただカメラワークの自由度から言うと2オペにはかないません。撮影に限らず、点検業務や災害調査などでも2オペができると便利なことが他にもたくさんあります。それなりの設備投資とカメラ操作の練習が必要ですが、機会があれば皆さんも是非チャレンジしてみてください。お互いにリスペクトできるパートナーを見つけてね。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士
EPISODE10: 岩になったパイロット
プロの空撮エピソードから学ぶ
2011年に株式会社アマナでプロの空撮チーム「airvision」を立ち上げた横濱校長が、機体の開発からCMの撮影まで10年に亘る長い経験の中から全てのドローン運用者に向けたアドバイスをシリーズでお届けします。今回のテーマは「岩になったパイロット」です。
エピソード10回目の今回はアドバイスというより、当スクール講師の小林先生がその昔に岩になったことがあるという面白いお話しです。彼が岩になったのは事実です。その時のことを本人も「本当に怖かった」と言っていました。
2014年3月公開の映画「◯◯の××便」(実写版)の撮影にドローン空撮で参加させてもらった時のことです。撮影は2013年、小豆島や岡山、千葉館山など広範囲で長期間にわたりましたが、ロケのメインは小豆島で、延べ2週間ほど滞在しました。その時に小林バイロットが岩になってしまったのです。
この案件では操縦全てを当時airvisionチームのエースパイロット小林先生に受け持ってもらいました。チーム全員がまだ経験の浅い時期でしたが、年齢的にチームの軸となるべき彼に頑張ってもらうことにしたのです。撮影でフライトごとに撮影内容などの記録を取っていたのでほぼ正確に250回を超え、貴重な実戦経験を一気に積むことができました。
彼が岩になったのは小豆島の「寒霞渓(かんかけい)」という断崖絶壁でのことです。主役のK.F.ちゃん(当時はまだ少女だったので、あえて「ちゃん」です)が断崖に突き出した岩の上で50cmほどの段差を飛び降り、大声で何かを叫ぶシーンを撮影した時のことです。
目も眩むような崖っぷちで、その先に向かって飛び降りる彼女のプロ根性には敬服しました。さすがに命綱は付けていましたが、衣装のベルトに目立たない細いロープを縛っているだけです。私にはできません。(笑)
撮影シーンの内容は、彼女の後ろでホバリングし、そこからアクションがスタートして彼女の右側を回って正面に行きます。そこで叫びがあって同時にドローンが斜め上に急に遠ざかる…、というカットです。
つまり、カットの後半は主役の後ろが全部見えてしまうのです。スタッフは全員かなり後ろの林の中まで後退し、見切らないように姿を隠さなければなりません。監督も拡声器で指示を出します。
でも、パイロットはそうは行きませんよね。そんなに離れることはできません。女優さんのそばを綺麗に旋回するためにできるだけそばにいたい。でもそれじゃパイロット自身がどうしても見切ってしまう。
ちょっと揉めましたが、現場て監督以下スタッフの皆さんにその事情を説明して納得していただき、できるだけ目立たないように迷彩服に目出し帽といういでたちで、女優さんの数メートル後方で操縦することになりました。
パイロットの近くに平坦な場所がないので、機体の離陸はさらにその数メートル後方。カメラ操作は後方の林の中という配置です。アシスタントがバッテリーを接続してパイロットに離陸を指示します。パイロットは身を捩るようにして16kgの機体を見ながら離陸させ、女優さんの数メートル後ろまで移動し、自分のすぐそばでホバリングさせます。その間にアシスタントは大急ぎで林の中へ。監督は映像を見ながら「よーい、スタート」と声を出し、演技を開始。「カット」が掛かるとスタッフが林からドドっと出て来て機体の着陸を待ちます。
着陸したドローンからメディアを抜きだし、映像を確認する監督。みんながその表情を注視します。「うーん、いいかな…、」みんな心の中で「OK」とと言う言葉を期待しますが、「よし、もう一回行こう」となり、やっぱりそうかと納得します。やはりプロは厳しい。
映画が公開され、最も気になっていたのはこのシーンでした。小林パイロットはどうなったのか。やっぱりバレちゃうんじゃないか。それとも一般の人には気づかないかななどと心配でした。
ところが、一回目の鑑賞では「あれ? いない!」。二回目の鑑賞で、「あ、あの岩だ」と気づきました。ちょうど小林先生のサイズの岩が、主役の少女の後ろにありました。VFXのチームが小林パイロットを岩に変えてくれたのです。
この作品、現在DVDで販売されている他、Amazon PRIME VIDEOでも見ることができます。機会があればこのシーンを見てみてください。そして、エンドロールのドローンチームの名前も確認してくださいね。(笑)
※写真の左が小林先生。右は筆者です。持っているのはこの映画でも使用したCinestar 8とそれに取り付けたMoviというスタビライザー(ジンバル)です。
横濱 和彦 Kazuhiko Yokohama
1951年生まれ 2012年 空撮チームairvision 立ち上げ映画、TVCM、PR動画、MVなどの撮影をする。MVなどの撮影をする。アマナドローンスクール校長として座学講習や責任者も兼ねる。
【代表作】・JR東日本、JR東海 CM・ヤクルト CM・トヨタ、レクサス PV・レッドブル MV
■実績 総飛行時間:543時間 夜間飛行時間:35時間 目視外飛行時間:25時間
■資格 DJIインストラクター、JUIDA無人航空機操縦技能ライセンス、JUIDA無人航空機安全運航管理者ライセンス、JUIDA認定スクール講師ライセンス、第三級陸上特殊無線技士